『ある星のある老人の独り言』 クオンの魂の記憶として、セトちゃん便り♪より
わしは、もうこの星・・・ん・・・なんて言ったっけな・・・ナダールって言ったっけな、この星に住んでおるんじゃよ。もうかれこれ、数百年・・・いや、もしかしたら数千年経っておるかもしれんな・・・。
ここではゆっくりゆっくり時間が過ぎているように感じるよ。とっても長い時間を過ごしている事だけはわかっておるんだが、それでも不満があるわけじゃない。
ん? 一人で寂しいだろうって??
ん・・・寂しくはないよ。本当じゃよ。朝起きたら朝日が差し込んで来て、わしを充電してくれる。足の先から頭のてっぺんまで、グーンと命を吹き込んでくれるんじゃよ。まるで「さぁ、素晴らしいあなたよ、今日も一日幸せな時間を過ごしてね」と勇気づけてくれているみたいに。
そして、鳥のさえずりだって、わしには「おはよう、おはよう。やぁ、素敵な日だね」って聞こえる。いつも笑顔で、いつも元氣なんじゃ、あいつらは。だから、ついついこっちまで笑ってしまって元氣になる。
風の匂いに乗って、どこか遠くにいる誰かの想いが流れてくる。その想いは大体決まって、どこの市場でどんな素敵なものがあったとか、誰が尋ねて来てとってもおもしろおかしい話をしたとかそう言う事。それを聞いてわしもおもしろおかしくなって、返事をするんじゃよ。
その想いが風に乗ってまた色んな場所に流れていくんじゃよ。
草花や色んな動物と話をすることだってできるから、寂しくなんかはないんだよ。
もう何千年もこうしてここにいる。・・・・そうだな・・随分昔かもしれないけども、家族のような人たちもいたし、大勢で集まって暮らしていたときもあったな・・・・。
それはそれで楽しかったけども、今はひとりでいたいから、こうして丘の上の小さな森の中で暮らしているんじゃよ。
わしは、以前に住んでいた他の星の事もたくさん覚えておるよ。そうだな・・・夢のような感じで思い出そうと思ったら思い出せるんじゃ。
ついこの前、川べりを散歩していたときのことじゃよ。水がキラキラしていてな・・・なんだかとっても不思議な氣持ちになったんじゃよ。その水とキラキラ光る水面が、わしを何か別の世界に引き込まれるような感じにした。
ふと思い出したんじゃよ。あのときの事を。
あの・・・とっても息苦しい・・・暗くて・・・重たい・・・あの世界の事を・・・・。
そう、わしは以前にその世界にいたんじゃった。
それはそれは今の世界に比べたら、とっても暗くて重たい・・・、思い出しただけでも息苦しさを感じるような世界・・・・。
だけども、そこには燃えるような情熱があったんじゃよ。そこには恋焦がれるような熱い想いがあったんじゃよ。すべてを失って闇の中に吸い込まれるような恐ろしさがあったんじゃよ。
悲しくて悲しくて、もう耐えられない程に悲しいと、胸が張り裂けそうになるあの感覚があったんじゃよ。
そして、世界が自分のモノになったんじゃないかと思う位に素晴らしい広がりや、誰かを夢中で愛したりすることで全部がまるで夜空の星のように輝いたりするんじゃよ。
一緒に泣いてくれる仲間がいたり、抱き合える人がいたり、一緒に大声で笑ったり・・・。
ああ、あの大笑いした時のみんなの顔やあの声の響き・・・・まだ覚えとるよ。
不思議じゃな・・・もう何千年も経っているはずなのに。まるで昨日のことのように覚えとるよ・・・・。
そうじゃな・・・。わしはこの世界に不満を持っているわけじゃない。すべてがキラキラしている。毎日が平和で・・・・そして、穏やかで・・・本当に幸せだと感じながら、毎日毎日嬉しさで目が覚め、寝る時も深い深いこの宇宙の愛を感じて、夢の世界に行くんじゃよ。
だから、嘘じゃなくて、本当に本当に嬉しいんじゃよ。
でも・・・ふと、あの世界の事を思い出すと・・・・。
ああ・・・・もう一度あの情熱を感じてみたいな・・・と。すべてが激しい嵐のようなあの世界に・・・・。あんなにも「生きている」ということに情熱を燃やせる瞬間がある世界・・・・。
それは夢まぼろしだけども、それでもあんな風にまた感じてみたいと・・・ふと思う時があるんじゃよ。
お前さんの世界では、生きてもせいぜい100年位じゃろ。
わしが3千年生きる中の100年位どうってことはない。もしもそれが叶うなら、わしの人生の100年位をその世界で過ごしてみたいなと思う。
ここでできない事をたくさんたくさん味わって・・・・もうお腹いっぱい味わって、その瞬間瞬間を、そのすべてを味わって・・・・また帰って来るんじゃよ。
そして、感じたすべてを風に乗せてみんなに伝えるんじゃよ。きっとみんな喜ぶよ。
鳥だって、草木だって、目をまんまるにして、わしの話を何度も何度も、何度も何度も聞きたがるじゃろう。
そして、わしも、きっと何度も、何度も、何度も、何度も、思い出して・・・・また味わうんじゃろう・・・・あの瞬間、瞬間、どんなに自分が感じたのかを。どんな想いを持って、どんな感覚で過ごしたのか・・・・あの暗く、重たい、息苦しい世界の中で・・・・わしは「生きているんだ」と全身で叫んでいるかのようなあの感覚を・・・・。
また思い出して・・・・。そしてまた深い深い宇宙の愛の中で眠りに落ちていく・・・。
どうか、たくさんの体験をしてまた教えてくれ。
お前さんの世界の事、その瞬間瞬間、どうやって生きたのか。何を感じて生きたのか。
どんな風に過ごしたのか。
心に刻まれたそれを・・・。その人生が終わった頃に、またわしに会いに来てくれんか?
そして、たくさんたくさん話を聞かせてくれんか?
んじゃ、そろそろ隣街の誰かさんから風の便りが来るころじゃから、ここで失礼するよ。
元氣でな・・・・。
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